ペイル・グリーン・ドット/読書日記

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 田宮さんはああ言っていたけれど、ちっとも痛くなかった。そして、頭のなかでラムネの泡がはじけるみたいにいろんなものがぱちぱち壊れてしまった。
 そして、ぼくたちはすこし馬鹿になった。

北野勇作『どーなつ』


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[映画]シックス・ストリング・サムライ

 

シックス・ストリング・サムライ [DVD]

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 原題は“SIX-STRING SAMURAI”。そのまんま「六弦の侍」なのである。

 

 1957年、ソ連がアメリカに対して核兵器を使用。アメリカはソ連に占領されたが、「ロスト・ベガス」だけは自由の砦として残されていた。そこでは「キング・エルヴィス」が王として君臨したが、40年後に死去。ベガスは新しい王を求め、全米からギターを手にした男たちが集結しようとしていた。 

 黒スーツにギターを背負い、日本刀を携えたメガネの男バディもそんな一人。彼はベガスへの旅の途中で盗賊に襲われた少年キッドを助け、身寄りのないキッドは勝手にバディの旅に同行。2人の珍道中が始まった。

 

 1998年にアメリカで製作されたアクション映画。タイトル通り主人公バディは、ロックをBGMにチャンバラ・アクションで敵に立ち向かう。世紀末にはこういう終末的世界観が受けたのか。
 盗賊や奇妙な一家など様々な敵が主人公に迫りくるが、最後に対決するのは謎の男「デス(死)」である。この男の正体もなかなか面白い。
 アクションの中に小粋なジョークも織り交ぜて、やり方によってはすごく渋い映画にもなったかも知れないが、基本的にはバカ映画である。なのでその手の映画が好きな人には堪らないのでは。逆に嫌いな人は嫌いだと思うし、メジャーな映画会社による超大作ではなくマイナーな低予算映画なのでそのチープ感が受け付けないという人もいると思う。そこらへんは好き嫌いがハッキリ分かれそうだ。
 とりあえず、絶え間なくバックで流れ続けるロックンロールをうるさいと感じるタイプの人にはオススメできません。

 

 バディを演じるのは製作・脚本・原案も務めるアクション俳優ジェフリー・ファルコン……と言ってもほとんどの人にとって「誰?」だろう。プロフィールによればアメリカの武術大会で華々しい成績をおさめた後、北京体育大学で東洋武術を学び、やがて香港映画などに出演するようになったらしい。
 この映画でハリウッドからも注目されたそうだが、本人は映画業界から離れ今は違うビジネスで成功を納めている模様。
 なんか胡散臭いなあ……という気もしなくはないが、アクションのキレは本物。日本の時代劇に敬意を払いつつ、カンフーも取り入れた見事なアクションでこの映画を支えている。でも黒メガネだったりダサカッコイイところがいいのだ。割れたグラスで酒を飲むシーンなど実に絵になっているし、この映画の魅力イコール大部分がこの人の魅力と言えるかも。カルト映画としてブレイクしたとまでは言えないけど、今でもこの映画の根強いファンがいるのがその証拠。


 そもそもこの映画、監督が大学の卒業製作で作り始めたというから凄い。構想を気に入ったファルコンと意気投合し、監督曰く「2人のバカがバカげた夢に向かって走り始めた」そう。2万5000ドルを元手に撮影に入ったが製作は難航。ダメもとで売り込み用プロモーション映像を作りサンダンス映画祭に乗り込みむなどしてエージェントを見つけたという。いやなんか本当に熱くなる話だ。

 

 でも邦題は『シックス・ストリング・サムライ』ではなく『シックスストリング・サムライ』にした方が良かったような気がするけどな。まあ「・」の位置の問題だけだが。

 そういやお笑い芸人「ギター侍」がブレイクしたのはこの映画の数年後だった。関係ないけど何となく思い出した。 

 

 この映画のサウンドトラックを担当しているのは劇中に出演もしているザ・レッド・エルヴィス。ソ連に支配された世界で「赤いエルヴィス」とは皮肉が効いている。ロックがテーマなだけあって彼らの音楽もかなりゴキゲンな感じなのでそこらへんも注目。

 ちなみに主人公はアメリカの初期のロックミュージシャン、バディ・ホリーがモデルだそう。でもってこの世界では主人公が異質な訳ではないらしく、ギターと武器を持ってベガス目指しウロチョロしている奴はたくさんいるようで、その中でも彼はダントツの強さ、という事のようだ。
 バディはやってくる敵を片っ端から斬り捨てていくが、ほとんど血が流れる事はない。今どきそれがリアル感を削いで余計にチープさを醸しているのだが、でもここらへんも日本の時代劇(『暴れん坊将軍』とか)みたいで個人的には好きである。

 

 凡百のアクション映画とは何かが一線を画しているが、それが何なのかよくわからない。SFっぽいけど全然近未来感もサイバー感もない。物語は荒唐無稽だしハチャメチャだしグダグダだけど、どうも嫌いになれん、というタイプの映画。だからといって「どれどれ、物好きの間で評判がいいというバカ映画とはどんなものか?」なんて心持ちで観るとたぶん肩すかしを食らうと思う。偶然見つけたらちょっと嬉しくなるような、ヘンな映画だ。
 そして自分でも意外なんだけど、ラストシーンにはちょっとウルっときてしまった。やっぱ何かある。