ペイル・グリーン・ドット/読書日記

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 田宮さんはああ言っていたけれど、ちっとも痛くなかった。そして、頭のなかでラムネの泡がはじけるみたいにいろんなものがぱちぱち壊れてしまった。
 そして、ぼくたちはすこし馬鹿になった。

北野勇作『どーなつ』


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[読書]バーコード革命

 

バーコード革命

バーコード革命

 

 

 僕と同世代の人ならきっと記憶にあると思うんだけど、僕らが子供の頃、「バーコードバトラー」というゲームマシンがあった。

 1991年にエポック社が発売したもので、本体にバーコードを読み取らせると、その情報を解析してキャラが生成されるというものだ。ユーザーはこれらのキャラ同士を対戦させて勝ち負けを競うのである。もちろんバーコードによってキャラクターの強さは変わってくるから、当時の子供たちは強いバーコードを求めて様々な商品のバーコードを切り取ったものだ。

 バーコードというどんな商品にもついているシンボルを、自分のオリジナルキャラにする事ができるというのが斬新だった。僕は持っていなかった(買って貰えなかった)けど、電子ゲームといえばテレビゲームが全盛だった当時の市場に、大きな反響を巻き起こした商品だったといえる。

 

 バーコードバトラーの熱気はいつの間にか収束していったけど、この本『バーコード革命』を見かけた時にあのワクワク感を何となく思い出してしまった。経済社会で生まれた合理化の象徴であるような味気ない記号「バーコード」を、ちょっとした工夫で夢のあるアイテムに変えてしまう手腕は、日常をちょっと楽しく暮らすコツに繋がっているのかも知れない。

 

 この本は、デザインバーコード社が産み出したその名の通り軽妙なデザインが施されたバーコードが多数収録されている楽しい本。

 デザインバーコード。一部の商品では現在すでに流通しているので見た事のある人も多いかもしれない。バーコードの一部が人やモノの形になっていたり、大きな図柄の一部にバーコードが嵌りこんでいたりする。

 なんとなく感覚的にわかると思うのだけど、バーコードはあのシマシマの部分を機器で読みとる事さえできれば、あとは意外と自由にデザインの幅を持たせることができるのだ。簡単そうに見えるけど、そこに気づいて着眼点を置いたのは凄い発想力だと思う。

 

 本書によるとデザインバーコードが初めて採用されたのはサントリーの飲料「燃焼系 アミノ式」(CMが流行ったなあ)と「健康系 カテキン式」だそう。

 そこにはバーコードを使って色々な体操にチャレンジする体操のお兄さんが描かれていた。時には果敢に、時には必死に、大真面目なそのバーコードは、気づかない人も多かったけど、買った人にほんのちょっとだけクスッと笑いを届けてくれた。

 ここにはそのサントリーでデビューしたデザインバーコードの他に、企業への「提案」としてまだ商品化されていないデザインバーコードが紹介されている。例えば「メルシャン」ではバーコードがワイングラスの形になっている。ピザーラのバーコードはとろけるチーズの一筋一筋だ。「山手線」のバーコードは線路の形をしている。

 「山手線」のバーコードって何なんだかよくわからないけど、そんなものも収録されている。見ているうちに現実的な問題はどうでもよくなって、楽しいバーコードが作れればいいじゃんと思ってしまう。ちなみに以上はCHAPTER01(第1章)に収録されている「企業も笑ったデザインバーコード」だ。

 

 こんな調子でCHAPTER02には「飼い主募集中のデザインバーコード」が掲載されている。シャンプーのバーコードはもちろん女性の綺麗なサラサラヘアーだし、カーステレオのバーコードはスペクトラムアナライザーみたいだ。

 この他にもCHAPTER03には「あったらいいな、こんなデザインバーコード」、CHAPTER04には「発信するデザインバーコード」を収録。

 「あったらいいな~」には沖縄をテーマにして首里城を模したバーコードが掲載されているし、「発信する~」には米軍基地をテーマにフェンスを模したバーコードも掲載されているのが沖縄県民としては気になるところ。

 この章では他にも自殺防止やホームレス、動物愛護、地球温暖化など何気に硬派な社会問題をバーコードを通じて訴えている。

 

 意外にというか下ネタものも結構多くて、こんなの商品化できる訳ないから完全にお遊びだろうね。でもこういう遊び心は大好きだし、そこからアイディアが拡がりそうな気もする(多分)。

 それぞれのバーコードに付された一言コメントも洒落ていて、さすがデザイン系のクリエイティブな集団だなあと思わせる。「ギター」については<音のないコードです。>、「青春旅行キップ」には<オトナになるって、長い旅を始めることなのかもしれない>なんてコメントされていて、そのまま製品のキャッチコピーに使えそうだ。

 

 思えば僕が子どもの頃、本にバーコードが付く事になった時を思い出す。確か本にバーコードってのは装丁の美しさを損ねるんじゃないかと少し議論になった。今ではどの本にも普通についているバーコード。工夫次第でまだまだ楽しめるのである。

 ちなみにこの本についているバーコードは何の形だろう? 実は「しおり」の形をしている。しおりが示す金額は本体価格1,000円(税別)。厚さの割にリーズナブルです。