ペイル・グリーン・ドット/読書日記

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 田宮さんはああ言っていたけれど、ちっとも痛くなかった。そして、頭のなかでラムネの泡がはじけるみたいにいろんなものがぱちぱち壊れてしまった。
 そして、ぼくたちはすこし馬鹿になった。

北野勇作『どーなつ』


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[読書]なぜ宇宙人は地球に来ない? 笑う超常現象入門

  

なぜ宇宙人は地球に来ない? (PHP新書)

なぜ宇宙人は地球に来ない? (PHP新書)

 

 

 世間的に「UFO」は宇宙人の乗り物だと半ば常識のように信じられているが、でもそれってちょっとおかしくないか? そんな疑問から、宇宙人が存在したとして地球へ飛来する確率や、したとしてそれを政府が秘匿し極秘のうちに解剖するようなことがあるかを冷静に論じていく。本来、「単なる未確認の飛行物体」の意味である「UFO」という言葉が違う意味を帯びている現状にも突っ込みを入れる。
 そんな風に、UFOをはじめ世の中の様々な超常現象にタレント・松尾貴史が突っ込みまくるのがこの本だ。

 

 最初に頭に入れておかなくてはいけないのは、松尾貴史自身は超常現象について「否定派」というわけではないこと。むしろ超常現象大好きな部類の人のようだ。そうでなければこれだけ多種多様な現象を集めてそれぞれにいちいち突っ込みを入れるなんて出来る訳がない。ただ彼は、短絡的になんでも超常現象のせいにしてしまう風潮をおかしいと言っているのである。本人曰く肯定派でも否定派でもなく「懐疑派」なのだそうだ。何でも幽霊や宇宙人のせいにするのではなく、物事や現象の裏側にある原因をしっかり見つめて考えてみれば、簡単に答えは見つかるのかも知れない―そういうスタンスだ。

 

 だからこの本は面白い。古今東西の超常現象を「いやいやそれはどう考えてもこうでしょ……」「そんな訳あるかよく考えてみい」とビシバシ斬り捨てていく様はなかなか痛快だ。
 例えば松尾は、’90年代半ばに「永久機関に投資をしている」という男に出くわしている。その男曰く、ある親子が永久機関を発明し試作品も作り始めているという。なぜそんな情報を知っているのかと松尾が問うと、「飲み屋で知り合って教えてもらった」という答え。どう考えても怪しい。「なぜ世界中がひっくり返るような人類始まって以来の大発明をその親子はあなたに打ち明けるのだ」と的確な突っ込みを入れるが、男はもう大金を親子に渡してしまった後。
 人はこうして騙されていくのだろう。この場合は男が永久機関というものの重大さを理解していなかったせいもあると思う。そういう意味でも、元々怪しげな物事が大好きで詳かった松尾の方が騙されにくい訳だ。

 

 その他にもミステリーサークルやスプーン曲げ、マイナスイオン、雨男、死体洗いのアルバイト、血液型占い、開運印鑑等々……といったメジャーなものから、ペンジュラム、マニ車筮竹といったマニアック系まで、松尾が取り上げる事象は実に幅広い。
 中には超常現象やオカルトというより都市伝説に近いものもあるが、何となく妖しげなものと大雑把に括っているようだ。

 

 そこに描かれる人々は見事に超常現象に踊らされていて、松尾が「コントか!」と言いたくなるのもわかる。
 しかしこれは実は笑いごとではない。極端な話だが、人生の不幸を何かの呪いのせいにしてしまえば、それは安心できるかも知れないが解決にはならない。自分の性格や物の言い方を少し直せばよりよい人生を送る事ができるかも知れないのに、それを得体の知れない力のせいにして納得してしまっていてはその機会も失われるだろう。
 身体の不調を何かのパワーが不足しているせいにして、妙なグッズを買ってきて安心していては、本当に必要な医療を受ける機会を損失してしまうだろう。

 

 本書にはこう書かれている。<ところが、その「信じれば楽になれる」ということから、私たちは「疑う」という面倒臭く煩わしい作業を、必要な時にまで怠ってしまうことがある。[中略]疑問というものは、時として素晴らしいひらめきや、アドバイスや、危険回避情報を与えてくれる。子供の頃から、「なぜだろう」「なにかしら」という好奇心や探究心を持たずに育ったら、まともな社会生活が送れるようになるだろうか>(p5) 
 つまりそういう事なのだ。何事も無批判に受け入れるのではなく、自分の頭で考えてみようよ、そう語っているのだ。
 これは当り前のようでいて、なかなか結構難しい。超常現象の話だけではない。ビジネスの場などでも、無批判に受け入れてしまった方がその場全体が上手く回る、という事はよくある。そんな時に「ちょっと待って下さいそれおかしくないですか」と疑義を挟むのは確かに面倒だ。

 

 人間は本来弱い生き物だ。何かに頼って盲信してしまえば楽になれるだろう。しかし何かを探究していく好奇心こそが人類を導き、それは新たなフロンティアに人間を連れて行ってくれる。
 まあ著者は別に本書でそんな内容を語っている訳ではないが、読んでてそんな事も考えてしまったのである。
 でも松尾自身が記しているようにこの本は科学的・専門的に超常現象を本格検証するようなお堅い本ではないので、気楽に読んでいい。
 しりあがり寿のイラストは爆笑ものだし、松尾自身がノリノリで撮影している各章の扉写真も笑える。