ペイル・グリーン・ドット/読書日記

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 田宮さんはああ言っていたけれど、ちっとも痛くなかった。そして、頭のなかでラムネの泡がはじけるみたいにいろんなものがぱちぱち壊れてしまった。
 そして、ぼくたちはすこし馬鹿になった。

北野勇作『どーなつ』


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[読書]歩兵型戦闘車両OO(ダブルオー)

 

歩兵型戦闘車両OO(ダブルオー)

歩兵型戦闘車両OO(ダブルオー)

 

 

 現代日本を突如襲う謎の怪物。自衛隊でさえ歯が立たず、もはやなすすべもないかと思われた時、現れたのは環境庁が所有する巨大ロボット。その名も00式歩兵型戦闘車両、通称ダブルオーである!

 97式特務作業車両甲、98式装輪装甲車両乙、99式巡航戦闘車両丙、この三台の特殊車両が合体してダブルオーとなる。全高23メートル、標準装備重量78.5トン。足が短く胴が長いずんぐりむっくりの外見は、まるで電気ポットのようで、日本を守るヒーローにしてはどうにもカッコ悪い。
 そんなダブルオーが遭遇する三つの闘いを本書では描く。

 

 日本ではチビッ子から大人まですっかりお馴染みの「巨大ロボットもの」を新世紀に描きなおしたSF小説。リアルな味付けがなされ、読み応えは十分だ。
 といっても、本書が「リアル」なのは本格戦闘ものとして描かれているとか、人間描写が書き込まれているとかそういう点ではない。いや、そういう点もあるのだが、本書が「リアル」なのはこの小説が汗臭い「仕事小説」として描かれている点、引いては本格的「公務員小説」として描かれている点である。
 例えば、ダブルオーがなぜ合体ロボなのかというと予算の関係で複数の年度に分けて造られたからであるからとか、なぜ人型巨大ロボを環境庁が運用しているのかというと防衛庁がバッシングを受けている時に世間の批判をかわすためにこっそり別の省庁に譲り渡したからだとか、見事なまでにお役所仕事なストーリーが展開される。

 そんなダブルオーに乗り込むのはお役所仕事から遠く離れた三人の男たち。リストラされた上に恋人にもフラれたサラリーマン・雨月、事故を起こして再就職もままならない重機乗り・胡子、フリーターだがシューティングゲームでは天才的な手腕を発揮する妹尾。それぞれの事情で路頭に迷っている三人が、それぞれの特技を買われスカウトされる。
 そもそも役所仕事に染まっていない個性的な三人は、前例主義に固執する上層部を尻目に次々とハチャメチャをやらかし危機を乗り越えていく。

 

 作者は愛媛県庁に勤めた経験を活かし、そこらへんの描写を非常に本格的で生々しく描いている。融通がきかなくて小回りのきかない公務員の仕事を、批判するでもなく肯定するでもなく、ただ「そういうもの」なのだとして描いている。
 よくあるヒーローロボットものとはちょっとズレた感覚が楽しい。登場する怪獣の名前も、「ソドム」「バブル」「セックス」とあんまり普通はつけなさそうなネーミング。また街を破壊するダブルオーに批判が集中したりするのもいかにもな感じ。自衛隊環境庁の対立などもシリアスすぎて笑える。

 ストーリーはテンポよく進んでいくが、描き込み不足な部分が多々あるのが残念。巨大ロボットが暴れまわる日本に対する海外の反応はまったく描かれていないし、ダブルオーを追い回す女性ジャーナリストの動向もあまり描かれていない割には最後まで登場するので唐突な感じがする。さらに怪獣は人間を取り込んで暴れ出すのだが、その取り込まれた人物の描かれ方も中途半端である。

 まあ、公務員の立場、民間の立場、いろいろあるので読者の立場によって読み方の印象はずいぶん違うと思うが、登場人物それぞれが自分たちの役割をまっとうしようという気概に溢れ、仕事に情熱を傾ける姿は胸をうつ。ガチな「仕事小説」だ。

 

 思えば俺も会社ではいろいろ理不尽な目に遭ったな、今考えると絶対俺は間違ってなかったな、とか、仕事をしている人なら感じる事は多いかも知れない。だからこそ、そんな逆境を乗り越えて奮闘する登場人物たちの姿を応援したくなるのだろう。『プロジェクトX』とか『プロフェッショナル』みたいなTV番組が好きな人はハマるかも 

 そんなノリと巨大ロボットもののノリが融合しているので、燃える人は猛烈に燃えると思う。

 

 作者のHPの日記には執筆時に<主婦でも分かるSFを目指した>とあるように、軽く楽しめる娯楽小説である。過度に期待しなければ素直に楽しめるので、こういう巨大ロボものへのアプローチもアリだと思う。ちょこっといじればシリーズ化もできそうだし、深夜アニメあたりで放送したら人気が出そうな気がするが。合い言葉は「チェンジ、ダブルオー!」だ。

 面白いと思うんだけど。どこか文庫化してくれないかなあ。

 

 第3回日本SF新人賞佳作入選作品『〇〇式歩兵型戦闘車両』を加筆修正のうえ改題。